予定を早め、朝 5 時に出発するため、暗い中で準備。おっさんがお湯を沸かしてきてくれたので、レトルトのぞうすい+味噌汁(別々にではなく、一緒くたに溶かしてひと思いに食す)で朝食。枕元に水を満たしたサーモスを置いて、目をさます都度ごくごく飲んだせいか、それともおっさんが持参した酸素スプレーのおかげなのか、高い山で決まって起こる頭痛や吐き気に悩まされることがなかった。
夜明けとともに出発。
ふたたび白馬山頂を経由。
私「あそこに見えるのは剱岳だよね?」
おっさん「あれはラピュタだよ」
マジデスカ。
前日は一緒に歩いてくださった救助隊員さんに迷惑をかけられず、あまりゆっくり見る余裕がなかったけれど、三国峠付近の斜面の岩場は一面ピンク色に見えるほどコマクサが咲き乱れているのです。
雪倉岳への分岐を越えたあたりで、 マツムシソウが出現。
目の前にそびえるこれが、雪倉岳だと思い込んでいたのさ (おっさんがそう言うものだから)。あれを越えるの~? と正直びびっていたら、クールな単独行のダンディが、「あれは鉢ヶ岳。ルートは迂回してるよ」と教えてくれたのでした。おっさん、2 年前に同じルートを通ったはずなのに忘れてる。
おー、るりるり発見! 上高地で見た「エゾムラサキ」かと思いきや。あとで朝日小屋で上映されたビデオによると、「ミヤマムラサキ」なんだそう。通りすがりの登山者の方に聞かれて「エゾムラサキ、かなんかだと思います・・・」と嘘を教えてしまったよ・・・。
雪倉岳の急登がはじまります。雪倉岳避難小屋のトイレに大渋滞が起きていました。しかし今回大汗をかいたので、どれだけがぶがぶ水を飲んでも一向にトイレに行きたくならなかったな。
あまりのしんどさにへこみそうになるたびに、可憐な花々が目に入り、気持ちをすこし立て直す。その繰り返し。
雪倉岳を登りきって下りに入った頃に満を持して登場したのはウスユキソウ。エーデルワイス。初めて見ました。感動でした。
ダイモンジソウ。花びらが漢字の大に似て、5 枚あるうちの 2 枚がひょろりと長い。
途中、10 名前後の団体さんが人が行き来できないほど狭いルートの途上で溜まっていた。花を見て写真を撮ったり、植物の説明を受けたり、靴ひもを結びなおしたり。
昨日最終登山者になってしまったこともあり、停滞してしまうことに不安があったため、お願いして先に行かせていただいた。そのときに、団体さんたちに窮屈な思いをさせてしまったらしい。「そんなに急いでどうするんだ」「こんな狭いところで追い越しをかけるなんて」という旨の、咎めるような男性の声が背中に投げかけられ、ショックを受けた。歩くのが遅いからこそ、自分のペースを守りたかっただけなのだけれど。その後は、その団体さんたちからできるだけ距離をとるように黙々と急いで下った。
雪渓が現れたり、水場で冷たいおいしい水を補給したり、湿原を縦断する木道を歩いたり。
湿原では植生保護のため、木道以外に入り込んではならないという注意書きの看板が立っている。そのため、立ち止まらずに歩き続けるしかなくて、お昼休憩をとるタイミングを完全に逸してしまった。結局、木道を抜けて最初に目についた座れそうな場所に陣取って、遅いお昼。白馬山荘で作ってもらったお弁当を広げる。
ばて気味でしたが、おいしくいただきました。
ニッコウキスゲ。写真を撮られていた方が、「尾瀬よりもきれいだよねぇ」という感想を漏らしておられました。1 つの山で、色々な山のいいところが全部味わえるのが白馬の魅力なんだとか。
この日の工程の最終段階というところで、「水平道」 という道に入ります。しかし、これ、水平とは名ばかりで、結構だらだらと登りを繰り返します。しかも、ここまでの花の咲き乱れる登山道から、地味ーな登山道に姿を変えます。実はこの道が、この日一番辛かった。
高度表で見ると、末尾のネズミのしっぽみたいな部分なのですが。
とうとう、「もう駄目。もうヤダ。もう登りたくない」と弱音を吐いてしまった。そうすると止まらなくなってしまい、おっさん相手にぼやきまくりながら登る。
見るからにへばった様子の私を見かねてか、前を歩いていたおじさんがキャンディをくれて、「もうちょっとだから、がんばって」と励ましてくれた。こんな大人ですみません・・・。素敵な人に出会えるのも、山の良いところですね・・・。
もう泣くかもしれん、と思っていたところに、登山道を横断するように小川が流れていた。へたり込むように休憩。どうせ汗まみれなんだしと思い、流れる水を手ですくって頭を濡らしたら、すこし気分が良くなった。これで最後のひとふんばりができたような気がする。気を取り直して歩きはじめる。
おっさんが励ますつもりか、「そこが朝日小屋だと思う」と指さしたのは、朝日岳への分岐点であった。朝日小屋はそこからさらに一登り。「うそつき~」とおっさんを責めながらも、もう小屋の姿が坂の上に見えるので、気分は大分楽になった。ゆっくりゆっくり、最後の傾斜を登って小屋に到着。小屋前のベンチに座り込んでしばらく動けなかった。
この日は多くの団体さんが宿泊し、小屋は満員だったようです。足の踏み場もないほど敷き詰められた大部屋の布団 1 組を確保。
まずはサポートタイツを脱ぐために更衣室へ。更衣室、といっても人が 2 人も入ればいっぱいになりそうな狭い空間なので、時間帯によっては待ち行列ができそう。手早く利用するのがコツです。タイツを脱いで、身体を簡単にデオドラント・シートで拭いてようやくさっぱりした。
おっさんはビール、私はポカリを買って小屋前のベンチでゆっくりたそがれる。テント場の向こうに伸びている道を登ると、お花畑があるんだ、とおっさんが教えてくれるけれど、動く気にはなれない。入れ替わり立ち替わり、向かいのベンチに座る登山者の方々の山の話をうかがう。みなさん、すごい経験者ばかりだ。可愛い女の子 2 人連れが、白馬の地図を見ながら「猫の踊り場」という場所があるんだ、と話していたので思わず身を乗り出してしまった。めったに人の入らない山の中で、夜な夜な猫が踊っていると想像すると楽しい。
そうこしている間に夕食。 朝日小屋の夕食は、おいしいんだとおっさんに聞かされていたけれど、ほんとうに趣向が凝らしてあって、山の上で供されるごはんとは思えない。がつがつ食べる。
夕食後、階段をぎくしゃく降りる私の姿を見たおじさんに「ストレッチしなさい」とアドバイスをいただいたので、布団の上で柔軟をしていたら、そばの布団にいたおじさんが正しいストレッチのしかたを講習してくれた。それを発端に、部屋中のあちらこちらでストレッチがはじまって、なにか連帯感。
洗面所が混んでいたので、外に出て、キャンプサイトの水場で塩を使って歯磨きをしていたら、にわか雨が降って来た。最終日の登山道はぬかるむとべちゃべちゃになるらしいと聞き、ちょっぴり不安になる。
部屋のあちらこちらからいびきが聞こえてくるので、耳栓をして就寝。大勢の人と布団を並べ、妙に空気がこもって暑苦しく、落ち着かないはずなのに、神経質な私が爆睡してしまった。それだけ疲れていたのだと思う。夜中おっさんが星を見に外へ出たらしいけれども、そんな余裕、私にはまったくなかった。
次が最終日。朝日岳を経て蓮華温泉へ。